福田進一(5)2007年09月20日 08時02分03秒

「せんくら2007」での使用楽器について少し説明しておきましょう。今年は2つの異なった時代のギターを使用します。

皆さん御存知のクラシック・ギターと、もうひとつは本当のクラシック・ギター。クラシック音楽全盛期の1800年代に作られていたピリオド楽器です。

『えっ?本当のクラシック・ギター? 今のギターってクラシック音楽を弾く本当のギターじゃないの?』と思われるかもしれません。そうなんです。1700年代の終わりから1800年代初頭に、ギターはヨーロッパ全土に広まり、それまでの複弦(マンドリンやリュートのように弦が2本一組になっているもの)から現代のように単弦6本の楽器に変化しました。そして各国にギター職人が生まれていったのです。

1820年代前後に、最初に現れた名工は、ロンドンのL.パノルモ、ミルクール(フランス)のR.F.ラコート、そしてウィーンのA.シュタッフェルでした。これらの楽器で当時の名手たち、ソルやジュリアーニは「魔笛の主題による変奏曲」など、多くの古典ギターの名曲を生み出しました。

これはちょうどモーツァルトやベートーヴェンが、今日のピアノではなくチェンバロやペダル機能も未だ不完全なハンマークラヴィーアで名曲を残したのと似ています。最も重要な作品は、パリ、ロンドン、ウィーンなどで生まれたのです。『えっ?スペインじゃないの?』そうなんです。当時のギター文化は社交界を中心に発展したので、スペインはギターの故郷なのに、少し遅れをとったのでした。

19世紀、ヨーロッパ各地のギターは、それぞれ独自の音色を持ち、非常に優雅な、見た目も美しい楽器でした。しかし残念ながら、音色の種類が少なく、ロマンティックなクレッシェンドの表現力に欠けていました。そこに出現したのが、スペインの天才製作家アントニオ・デ・トーレス(1817-1892)でした。トーレスが偉大なのは、独自の力木の配列を考案し、数々の実験を繰り返して大きなボディーを設計し、最終的にはギターでロマン派の音楽を表現するための理想的な音響を開発した事です。今日、皆さんが御存知のクラシック・ギターは、ほとんどがこのトーレスを原型としています。

さて、せんくら2007の2つのソロ・リサイタルでは、このトーレスの影響を強く受けたエンリケ・ガルシア(1905)のレプリカ作品と、19世紀ギターの花形、ルネ・フランソワ・ラコート(1840)のオリジナル楽器を使用する予定です。お楽しみに!